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廃棄予定の災害備蓄品を地域に還元。食品ロスをなくす『StockBase』

今回は、「株式会社StockBase(ストックベース)」代表取締役の関芳実(せき よしみ)さんと取締役の菊原美里(きくはら みさと)さんにインタビューを実施しました。関さんと菊原さんは、企業で余った備蓄食やノベルティを必要とする団体へ有効活用する仕組み、物品の寄贈先マッチングプラットフォーム「StockBase」を運営しています。
StockBaseをはじめたきっかけやどんな想いでサービスを展開されているのかなど、お話を聞いてきました。


StockBaseのこれまで

【左】関芳実(せき よしみ)さん
【右】菊原美里(きくはら みさと)さん

関さんと菊原さんは、もともと横浜市立大学の同級生。大学3年生の時、関さんが受けていた『起業プランニング論』という授業をきっかけに同じチームの一員として、ビジネスプランコンテストを目指すことになりました。

菊原さん「学生ボランティアで、企業の販売促進用の余ったカレンダーを高齢者施設に届けている企業に出会い、一緒にカレンダーを運びました。企業では不要になってしまったカレンダーですが、高齢者の方はとても喜んでいて。『薬を飲み忘れないために貼り付けて使うんだ』と教えてくれました。その時、“誰かにとっては不要なものでも、誰かにとっては必要なもの”になる”ことに気付いたんです。」

しかし、ここで誰かにとっては必要なものだとしても、自分自身の課題ではないことをアイデアとして考える難しさにぶつかったそう。

菊原さん「防災に力を入れている企業にヒアリングに行った際、『災害備蓄品がたくさん余ってしまう』と教えてもらいました。その後、ヒアリングを重ね、災害備蓄品の課題を見つけていき……。併せて、フードバンクやホームレスの方の支援をしている団体にも話を聞いたり、実際にボランティアに参加したりと繋がりを広げていく中で、余った災害備蓄品を必要としている人たちのところに届けるビジネスを思いつきました。」

授業をきっかけにしたビジネスアイデア。学生で学業をしながらも、事業化しようと思ったきっかけはあったのでしょうか。

関さん「当時は、まさか事業化するなんて思っておらず、コンテストに参加するからには賞を獲りたいということだけ考えていました。ですが、実際にいくつかの賞をもらったこと、講評の時に『社会的意義がある』と言われたことに後押しされて事業化を考えたんです。目の前の課題を解決するアイデアも起業するための資金(コンテストでもらった賞金)もある。気持ち的にも環境的にも起業できる状況になり、大学を休学して正式に事業化することになりました。」

事業化する上で大変だったこと

高齢者施設に届けたカレンダーから現在のサービスの着想を得たという2人。その着眼点が素晴らしいですよね。そんな関さんと菊原さんに、事業化する上で大変だったことを聞いてみました。

関さん「3月のはじめ、お世話になっている大学の先生と話して『法人格がないとやっていけない。キリもいいし、4月1日に始めちゃいなよ』と背中を押してもらい、登記しました。」

菊原さん「つまり、サービスができていない状態なのに、法人格だけ作っちゃったんですよね(笑)でも、法人税が年7万円もかかることに気付き、『だったら、その分売り上げがないと!』と後ろから突き動かされた感じです。当時はビジネスマナーもわからないまま、営業に行っていました。会議室で座る位置や名刺の渡し方、置き方なども知らなくて。さらに、当初は実績がなかったため企業や団体にかけあっても全然理解してもらえませんでした。電話で説明しても、『無料で備蓄品をもらえるってどういうこと?』と怪しまれてしまう。1~2週間くらいで受け入れる先を見つけなければいけない状況だったので、とても苦労しました。」

StockBaseの今

StockBase立ち上げから2年。立ち上げ当初は、関さんと菊原さんの2人で運営されていたようですが、現在はどのような体制で運営を行っているのでしょうか?

菊原さん「私たち2人はマッチングの業務はもちろん、経営方針を考えたり、営業活動を行ったりしています。それに加えて、マッチング事業の請求書や報告書の作成など、事務的なところを中心に担う大学生のインターン生が5人、そしてと営業マンが1.5人います。1.5人と数えているのは、横浜市内の外部機関からの支援で、副業人材として入ってもらっている形だからです。」

関さん「今までビジネスというものを知らず、オリジナルでやってきましたが、外部から心強い助っ人が来てくれたことによってビジネスのやり方を学びながら運営しています。」

サービスを利用している企業の特徴

続いて、StockBaseのサービスを利用する企業はどのような特徴があるのか聞いてみました。

菊原さん「備蓄品を提供してくれるのは、大手の企業が多いです。従業員の数が多いため、備蓄食の数も多い。そのため、備蓄食の処理に困っているところが多いようです。あとは、サステナビリティの意識が高い企業はよくサービスを利用してくれています。」

関さん「関東だけでなく、福岡や大阪などのマッチングサービスを利用したい企業から問い合わせが 来ることもあり、そんなときはオンラインで対応しています。企業から問い合わせをいただいたら、それが全国どこであっても、いつでも対応可能です。

また、企業と一緒に、どのようにマッチングサービスを継続してできるかを考えたりするだけでなく、備蓄品を受け入れる先についても自分たちで開拓しています。例えば、自治体の社会福祉協議会に相談をして、支援を必要としている団体を探すこともあります。」

しかし、関さんと菊原さんは、サービスを提供する上で、試行錯誤しているところがあるそうで……。

関さん「『どうしたら企業の担当者、上の人が受けてくれるか?クリアできるか?』そこをふまえて、価格設定やプラスアルファの価値を考えなければならないのが難しいですね。」

菊原さん「また、私たちのサービスは廃棄と比べられることが多いです。StockBaseに提供するよりも、捨てるほうの価格が安ければ、企業は備蓄品を廃棄するという選択をしてしまうことがある。つまり、競合はいないはずなのに、廃棄業者が競合になってしまい、ほんの少しの価格の差で負けてしまうのです。 ですが、使えるものを処分することと人の役に立てることは全く違いますよね。ですから、経営層や広報に向けてアプローチし、『StockBaseのサービスを利用することで、会社のイメージを向上できる』というところに訴えています。」

備蓄品の有効活用をするための意識

様々な課題を乗り越え、備蓄品のマッチングサービス事業を営んでいるお2人。備蓄品をより有効活用するための意識を持つために、どのようなことに気を付けるべきか、それぞれ教えてもらいました!

菊原さん「備蓄をする時、“実際に食べる”ということを意識しない人が多いです。特に企業は、美味しさや栄養より、軽くて運びやすい、省スペースなものを選びがちですよね。『災害時に使わない場合でも、食べるのが当たり前』という意識に入れ替えて、栄養価の高いもの・美味しいものを選んでほしいなと思います。」

関さん「期限管理をちゃんとすること、気に掛けることが必要だと思います。『気づいたら期限が過ぎちゃった!』だと貰い手がなくなってしまいますので。」

このお話を聞いた時、家にある備蓄食も栄養やおいしさではなく、何となく選んでしまっていることに気付きました。また、期限管理も意識していないと忘れてしまいがちな人も多いと思います。これからは、栄養価の高いもの・美味しいものを選ぶ、期限管理をする、というのを意識したいですね。

StockBaseのこれから

次に、今後、StockBaseの今後についてお話を聞きました。関さんと菊原さんにはどのようなビジョンがあるのでしょうか?

関さん「寄贈も続けていきますが、寄贈だけにこだわっているわけではありません。企業や組織を対象に、そういった団体が持っている資源の無駄をどうやったら最適なところに有効活用できるか?寄贈のプラットフォーム+アップサイクル、資源化……など、活用方法はあるはずです。そういうソリューションをStockBaseで持ち、まずは備蓄食の廃棄ゼロを目指したいです。並行して、企業が持っているノベルティなどでカテゴリを広げたい。縦はカテゴリの拡大、横はソリューション拡大……この縦と横、両方で広げていければいいですね。」

“カテゴリとソリューションを拡大させること”は一見難易度が高そうにも見えます。しかし、すでにお2人にはStockBaseで新たに取り組むビジネスアイデアをお持ちのようです。

菊原さん「フードバンクや子ども食堂からは『野菜が欲しい』との声が多いのですが、生鮮食品が手に入らないのが現状。頭の片隅にはずっと『野菜不足をどうにかしたい!』と思っていました。ただ、『今のプラットフォームだと生ものは扱えないから無理かも……』と思っていたのですが、廃棄野菜をレトルト加工し、備蓄食に生まれ変わらせるという新しいアイデアを思いつくことができました。」

関さん「アップサイクルの商品は“今、消費するもの”で作られることが多いです。例えば、ジャムなど。アップサイクル品と普通のジャムを比べると、どうしてもアップサイクルの方は普通のジャムより高いから、選ばれないことも。“備蓄”という価値があれば、価格が少し高くても売れるだろうという仮説を立て、このプロジェクトを進めています。」

読者へのメッセージ

最後に、この記事によって防災備蓄品の問題について知った人、これから知りたい、何か行動を起こしたい人たちに向け、メッセージをお願いしました。

菊原さん「備蓄食は本来、『使わないこと』が望ましいですよね。ただ、使わなかった時に『備蓄品をどうするのか?』を考えてみてほしいです。」

関さん「自分ごと化することが大切。『誰かがやってくれるんじゃないか』と考えて、他人事になってしまう人が多いんですよね。この記事が、皆さんにとって災害備蓄品のことを考えるきっかけになればいいなと思います。」

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、株式会社StockBaseの関さんと菊原さんにお話を伺いました。
次に備蓄食を購入する際は、災害に遭った時のことを想定して備える、備蓄品を使わなかった場合どうするかを考えてから選ぶようにするといいですね。これを機に、家にある備蓄食を確認してみてください。


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