【後編】洋服を買う時の選択肢に。『Enter the E』植月さんから教わる、エシカルファッション
前回、エシカルファッションのセレクトショップ『Enter the E(エンター ジ イー)』の植月友美(うえつき ともみ)さんのファッションのあゆみや人生を変えることになったきっかけをご紹介しました。後編となる今回は、『Enter the E』を始めることになった経緯や植月さんのファッションに対するモヤモヤについてお話を伺っています!
★前編はこちら
Enter the Eの始まり
グラミン銀行のムハマド・ユヌスさんの講義を聞いた数か月後、植月さんは『ボーダレスジャパン』の田口さんに出逢います。そして、田口さんから「社会課題をビジネスで解決する、社会起業家の養成学校をつくる」と聞いた植月さん。洋服が人や地球に迷惑をかけない社会をつくりたいという想いを形にするため、自産自着のビジネスをひっさげて、ボーダレスアカデミーに加入しました。
★ボーダレスアカデミー
「アカデミーに加入後、ビジネスプランを進めていくうち、オーガニックコットンを自産自着する体験型農園を構想していましたが、1人に貸す8畳分の畑でTシャツが2枚しか作れないことに気付きました。そこで、『これではいつまでたっても認知は広がらないし、当たり前に着る社会には程遠い。』と我に返ったのです。
さらに、日本でオーガニックやフェアトレードなどの洋服を買おうとすると、圧倒的に選択肢が少ないことに改めて気づきました。物理的にエシカルな洋服が買えない状況がある限り、私が陥ったように、知らないで環境負荷や人権問題に加担する人が増え続けてしまう。解決すべきはまず、エシカルな服の選択肢を増やすことだと気付き、エシカルな洋服を世界中からキュレートするセレクトショップを思いつきました。」
Enter the Eのお客さま
Enter the Eのユーザーは8割が女性で、その中でも日常的にエシカルな洋服を着用したい人が約4割、「自分のスタイル=エシカルファッション」の人が約3割、環境問題に関心がある人、古着以外でエシカルな選択肢が欲しい人がそれぞれ約1割と、お客さまの目的は様々です。そんなお客さまとは積極的にコミュニケーションを取るのが植月さんスタイル。
「どれだけの見えない努力があって、この洋服が作られているかを知っているからこそ、その物語を自分の言葉で伝えることを大切にしています。たとえ忙しくても、自分で売るスタイルは変えたくないですね。」
ブランドを選定するポイント
『Enter the E』は独自の選定基準を設け、エシカルなブランドを選んでいるそう。その選定基準は「1.持続可能な材料」「2.情報の透明性」「3.創設者、デザイナーのビジョン」「4.デザイン」「5.作り手へのリスペクト」「6.エネルギー・CO2・資源の使用削減に対する努力」の6つ。植月さんはエシカルなブランドの創業者と直接会うことを欠かさないといいます。
「これまで約100~200のブランドさんに会いに行きました。最初は、特徴ごとにブランドをマッピングしたマトリックス図を作って、『今のセレクトショップには、モダンでエッジなブランドやストリートっぽいブランドがないな』などと分析。テイストと価格帯を見て新たなブランドを探しに行くようにしていましたね。
また、昨年の夏から国内生産でオリジナルブランドも作っています。これまで商品は仕入で賄い、また廃棄が出ないよう、注文を受けてから仕入れるスタイルでやっていましたが、途中で先方の在庫がなくなってしまったり、そもそも海外ブランドだとサイズが合わなかったり……とブランドをセレクトするにも課題が見えてきました。また、コロナ禍では、直接創業者に会いに行くスタイルがとれないため、最近は新たなブランドのラインナップを増やすのも難しくなりました。それを受けて、オリジナルの洋服を人気アイテムの代替になるようなセットアップやワンピース、パンツなどを完全受注生産で作っています。選択肢を増やしたいけど、増やせない。それなら、自分で増やそうと思ったんです。」
ファッションの課題をどう解決する?植月さんのモヤモヤ
続いて、植月さんがブランドを運営される中でどのようなことにモヤモヤを感じたり悩んだりするか?と伺いました。
「いつも『課題をどう解決するか?』でモヤモヤしています。例えば、最近では、衣類ロス問題や賃金不払い問題へのアプローチとして『寄付付きのパンツ』をクラウドファンディングで販売していました。これは、ユーザーさんにアンケートをとった際、『衣類ロスが1番気になる』という結果が出たため。衣類ロスは、生地だけでも世界で15兆ドルくらいあると言われています。衣類ロスのような無駄をユーザーさんと一緒に解決することができたらと思い、廃棄予定の生地をかき集め使用することにしました。また、同時期に、愛媛県の縫製会社で起きた11人のベトナム人に対する賃金不払いの問題を知りました。国内ではびこる劣悪な労働問題を知ってしまった以上、なんとか解決できないか、彼女たちの生活の補填にできないかと考え、こちらのパンツの売上の6%を寄付するパンツを販売することにしました。
このように私は事業についてモヤモヤするというよりは、『社会の課題』についてモヤモヤしています。そして、それを解決するのがビジネスだと考えています。こうやって1ブランドくらい、情緒的に動いて問題解決を目指してもいいのではないかなと思っています。」
もう社会のせいなんて言ってられない
また、私たちは植月さんに「サステナビリティを自分ごととして捉えるために、何が必要だと考えているか?」と伺いました。 それに対して、植月さんはある大学生との会話を教えてくれました。
その大学生は「エシカルファッションを広めるのは企業の役割だと思うが、どうしたら良いと考えていますか?」と質問してきたそうです。
植月さんは、その大学生に「まず、『誰かがやればいい』つまり『ファッションの課題に、自分は加担してない』と思わない方がいいですよね。 グレタ・トゥーンベリさんが語った『How dare you?(よくもまぁあんたたちがこんなふうにしてくれたわね)』という気持ちもわかるけど、私たちはこれまで“便利さの恩恵”を受けてきています。恩恵を受けてきたからこそ、問題に無関係ではないということです。
“誰かがやればいい”という考えはもしかすると、自分の人生も“誰かがやればいい”と思っている感覚と近いのかもしれません。私たちは少なからず、「今」を一緒に作っている構成員だと思います。
課題がここまで拡大してしまった今、もう“社会のせい”と第三者的には言っていられません。私は、『問題を自分事にできない=自分の人生を生きていない』というふうに捉えてしまいます。」と返したそうです。
悪いとわかっていながらやるのは、中毒と同じ
続いて、サプライチェーンの人権問題・環境問題が取り沙汰されているファストファッションについてどう思うか尋ねてみました。
「話題のウルトラファストファッションのビジネスモデルはすごいとは思います。ありとあらゆる方法でコスト削減をしています。ですが、そんな彼らが誰をターゲットにしているかというと、所得の少ないアメリカや日本の若い子たち。まずは、自分たちの大切なお金が、その場しのぎの長くもたない使い捨てビジネスの食い物にされている構造を理解したほうがいいと思います。また、『みんなも買っているから自分も買ってしまう』というのは、体に悪いのはわかっているけれど、みんな食べているからとポテトチップスを食べてしまうのと同じ。悪いものだと知りながら摂取してしまうのは、もはや中毒です。その中毒を生んだのは社会ですが、苦しむのは誰なのか?冷静に自分と向き合うことが大事だと思います。」
「着させていただきます」のお話
最後に、植月さんから読者へ向けて素敵な言葉を教えてもらいました。
「朝、洋服を着るときに『着させていただきます』と言ってみてほしいです。食べる時に命をいただくから、『いただきます』と言いますよね。洋服も一緒で、生き物からできている。水や大地、光をもらって綿花を育てて、これは命をいただいている感覚と似ています。洋服を着る時に『着させていただきます』と言うと、大切にしようという気持ちが芽生えてくるんです。
物を大事にする、見えないものに対しても感謝するという日本の文化はエシカルな素質があります。1週間に1回でいいので、『着させていただきます』と言ってみてもらえると嬉しいです。」
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は、『Enter the E』の植月さんにお話を伺いました。
インタビューの次の日から洋服を着る時に、植月さんに教えてもらった「着させていただきます」という言葉を呟くようにしています。それまでは自分の着ている服に対してそこまでこだわりや特別な想いがありませんでしたが、呟くことで自分の洋服と向き合う時間が増えました。
エシカルファッションという選択肢はまだまだ少ないです。『Enter the E』のスローガン「10着のうち1着でもサステイナブルに」にもあるように、この記事を読んでくれた皆さんの選択肢の中にエシカルファッションが入ることを願っています。