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【前編】工業地帯の海岸をもう一度豊かに。ウミガメを呼び戻す「楽しい」海岸清掃とは

四日市と聞いて連想するものは何でしょうか。“工業地帯”を思い出す方は多いのではないでしょうか。四日市市では、毎月約200人が集まる海岸清掃“ウェルカメよっかいち”が実施されています。これは三重県四日市市楠町の吉崎海岸で、毎月第1日曜日朝8時から行われる環境保全活動です。清掃活動が約1時間、その後9時から自然に関する勉強会が実施されます。

私たち編集部が取材として参加した11月5日で実施回数は179回目。2023年11月5日までの参加者で延べ2500人が参加したといいます。

11月5日 ウェルカメよっかいち集合写真(提供:四日市ウミガメ保存会)

今回は清掃活動“ウェルカメよっかいち”を共催するNPO法人四日市ウミガメ保存会で副会長を担いながら、損害保険の代理店業に従事する株式会社ビーコードの代表取締役山田 和幸(やまだ かずゆき)さん(以下、山田さん)にお話をお聞きしました。

前編は四日市ウミガメ保存会の活動等を中心に、後編では山田さん自身の話を中心に前後編でお送りします。

四日市ウミガメ保存会活動のきっかけ

「工業地帯」というイメージがある四日市ですが、実は現在、生物が多様に共生できるよう保全に取り組んでいます。この精力的な活動により、四日市・楠(くす)にある吉崎海岸は、環境省より民間団体などが生物多様性の保全に取り組む区域「自然共生サイト」として認定されました。

それでは、吉崎海岸を守る四日市ウミガメ保存会はどういった形でうまれたのでしょうか。山田さんにお聞きします。

「発足当時、私は在籍していませんが、当初は吉崎海岸ではなく、扶桑(ふそう)緑地にある公園のゴミ拾いをしていました。ある日、扶桑緑地清掃に参加している楠地区出身のメンバーから『吉崎海岸には、大量のゴミが漂着している。そのせいでウミガメが産卵できない環境になっている』との話を聞いた四日市ウミガメ保存会・初代会長が清掃場所を公園から海岸へ移したのです。初代会長は、個人で亀の博物館を運営するくらい亀が好きでしたから。」

活動をするには様々な組織の協力が必要。そう考えた保存会は、地元の自治会等に事情を話し、2009年1月から吉崎海岸の清掃活動“ウェルカメよっかいち”を実施、自治会だけでなく四日市市や三重県の協力を受けながら活動を続けています。

山田さんご自身は、親子でできるボランティアを探していていたときにこの活動を紹介され、2011年から活動に参加することになったのだそうです。

砂浜を広範囲で清掃活動されている(提供:四日市ウミガメ保存会)
自然共生サイト認定証(提供:四日市ウミガメ保存会) 

四日市とウミガメ

次に、四日市とウミガメの関係性についてさらに詳しく伺ってみました。

「ウミガメ(アカウミガメ)は2013年まで吉崎海岸にきていて、実際に産卵していました。ところが大量の漂着ゴミの影響か、2013年を最後に吉崎海岸でウミガメの産卵を確認できていない。それでも、悲しいことに死骸が砂浜へあがるんです。解剖すると、体内からプラスチックゴミが確認されています。これはウミガメだけではない。魚もです。」

ウミガメや魚の体内から発見されるプラスチックゴミの話は、とても心が痛みます。プラスチックは少しずつ小さくなりつつも体内にも海にもそのすがたは残っています。実際に私たちが清掃活動へ参加した際も細かいプラスチックゴミが流木や浜辺に生息する植物に絡まっていました。

“ウェルカメよっかいち”の活動は?

多い時は約500人も参加する“ウェルカメよっかいち”。

「“ウェルカメよっかいち”では、ゴミ袋や道具類を全てこちらで準備。手ぶらで参加できるので、初めてのボランティア活動に最適です」と教えてくれました。

その手軽さから、地元に工場がある企業等も団体で参加することがあるようです。

さらに山田さんは「活動を始めた当時、先輩方から、継続することが大切だから頑張りすぎないようにと教えられたんです。今は自分が周囲に同じように『頑張りすぎないように』を伝えています」と語っていました。

清掃活動を始めた2009年から、清掃と併せて勉強会も開催しています。なぜ清掃活動にとどまらないのでしょうか。

「ゴミ問題は拾うだけではだめだと思っています。根本的にはゴミの出処を抑える必要がありますし、何よりも環境意識の高まりが必要です。市民の環境意識が高まることで、生産者である企業や行政機関にまでも影響を与えることができるからです。環境問題に様々な角度から興味を持っていただくきっかけづくりとして、勉強会をセットでやっています。」と山田さんは語ります。

「勉強会は毎月開催します。内容は小学校5年生くらいの子がわかるような、一緒に学んだり、つくったりできるワークショップなどです。楽しくないと続かないから日替わりで楽しめる内容になっています。前年登壇いただいた方にもう1度実施してもらうこともありますし、メンバーの紹介や推薦から講師を決めることもあります。いろんなところにアンテナを張って、この人おもしろそうだと思ったら声をかけてお願いしています。」

これまでには砂浜や流木を活用したアート作品づくりや、プラスチックゴミのグラデーションアート等、海岸漂着物を使ったアップサイクルのワークショップを行ってきたそうです。

海岸漂着物アップサイクル・フォトフレーム(提供:四日市ウミガメ保存会)
海洋性プラスチックアート作品・SDGsカラーホイール(提供:四日市ウミガメ保存会)
海洋性プラスチックアート作品・ウミガメ(提供:四日市ウミガメ保存会)
砂浜アート・吉崎海岸(提供:四日市ウミガメ保存会) 

2023年だけで参加者は約2500人もの参加とお聞きしましたが、参加者が年々増えているそうで、'ウェルカメよっかいち'が注目されている活動であることがわかります。

活動を通じて気づいた課題と今後

では反対に、運営する中で見えてきた課題はあるのでしょうか。

「お金はなかなか難しい。例えば50人くらい子供を連れていくイベントを企画すると、貸し切りバスを用意する必要があるなど資金が必要になってきます。誰でも参加できるようになるべく安い参加費にしたいと思っているけど、イベントをすればするほど資金確保が必要になると感じていますね。」

山田さんの話を聞くと、いいことをしようとする活動は、まだまだ様々な人の好意で成り立っていることを痛感します。難しい課題もありながら、今後はどのように展開されたいでしょうか。

「強制感なく、ゆるく継続することかな。繰り返しになりますが、海岸清掃は参加のおハードルが低い。どなたでも、企業でも参加しやすいです。なので、こういったハードルが低い活動を通じてボランティアや環境問題への意識を高めてもらえる土壌となればいいなと思います。」

今回は前編として、四日市ウミガメ保存会でのお話を中心に掲載しました。次回は後編として、副会長を担う山田さん自身のことをお聞きしていきます。

★後編はこちら


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