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平飼い養鶏を通して目指すものとは?循環型農業に取り組む、「そらとふじ」

多くの料理に使われる卵。全国で卵の価格高騰や、地域によっては品薄で手に入らないといったニュースも見られましたが、食卓によく並んでいる卵はどのように生産されているかご存知ですか?止まり木や巣、砂場も何もないワイヤーでできた金網の中に鶏を入れ、それを連ねて飼育をする「バタリーケージ」。日本の採卵養鶏場の92%以上でこのバタリーケージ飼育が行われています。そんな中、平飼いの卵が注目を集めています。

今回は、日新火災の代理店であるオートステップHARAの原さんから「地域で良い取り組みをされている方がいる」と紹介いただいたのが、静岡県富士市で平飼い養鶏を行っている「そらとふじ」の鈴木信司さん(そらとふじ代表社員)。 全くの未経験から養鶏を始められた鈴木 さんのお話しや、養鶏を始めた背景や伝えたい想い、実現していきたいことを語っていただきました。

そらとふじさんのこだわりたっぷりな卵

未経験から平飼い養鶏にチャレンジ!そのきっかけは

新富士駅から、車で約30分。富士山の麓に向かっていくと、茶畑も広がる風景の中、平飼いの養鶏場がありました。「ファ~!」という気持ちよさそうな鶏たちの声と共に笑顔で迎えてくれた、鈴木さん。

丘の上から見た養鶏場

5年前に富士へ越してきたという鈴木さん。もともと、貿易関係のお仕事もされており、今も携わっています。主に中国へ出張し、年間フライトはなんと50回!1年間のうち、約300日は中国へ足を運んでいたそうです。そんな中、2020年に新型コロナウイルス感染症の流行により、中国へ渡航できない状況になりました。その時に貿易事業はリスクがあると感じた鈴木さんは、従来の仕事に加えて畑違いの仕事をやろうと一念発起。漠然と興味があった農業について、情報収集を始めました。たまたま参加した同窓会で、ものづくりに携わっている人が多いことに刺激を受け、ご自身も「食べ物を作りたい」と思ったそうです。

いざ、養鶏を始めようと思った矢先に?

そんな中、鈴木さんに病気が発覚。貿易の仕事だけやっていた時代に、深夜発・深夜着の飛行機で渡航し、そのまま仕事に向かって……と、不規則な睡眠と、食事も疎かにしていたことが原因だったと振り返られていました。

大病を経験して自分が食べる食品について見直したところ「自分の食べ物は自分で作るのが、一番安全安心!!」という結論に達し、農業について調べ始めました。作物を1種類だけ作るのではなく、無農薬・無化学肥料・少量で多品目作ろうと検討した中で、農業と畜産を一緒にやることで、それぞれのメリットを活かしながら作物や家畜を育てることができることを知ります。しかし、準備や環境を整えることのハードルが高いとして牛や豚は断念し、鶏にたどり着きました。

鈴木さんの肩にのる鶏。
最初は、鶏に対して「なんだか怖そう」というイメージがあったそうです。

鈴木さんの趣味仲間が…?

鈴木さんは、病気を患う前は富士山を眺めながら趣味のゴルフを楽しんでいました。しかし病気の治療で東京の大学病院に入院、通院をするため1年半ほど東京で暮らしていました。

東京の八王子の山奥まで行って「『農業と養鶏をやりたい』と用地を借りる交渉をしても、農業未経験のためなかなか相手にされず、しかも“養鶏”と聞いた途端、『うるさいのでしょ?臭いのでしょ?』と門前払いばかりでした。そんな時に、静岡の昔のゴルフ仲間でお茶農家の友人に相談したら、『茶畑を一部辞めるところだったから貸すよ。』とまさかの展開になった。」と当時の様子を思い出されていました。

現在は、約2万㎡もの土地を借り、6種の鶏(名古屋コーチン・烏骨鶏・あずさ・後藤もみじ・岡崎おうはん・岡崎アローカナ)が飼育されている「そらとふじ」ですが、その背景には大変な苦労があったとか。

鶏たちの詳しい紹介はこちら

土地を貸してもらってから、まずは茶畑の木を抜いて土地を耕す日々。結局、整地し終わるまでに10ヵ月ほど要したとか。最初に整えた土地でひよこを飼いつつ、残りの土地を耕し、野菜を植えて……と傍から見るとハードなお仕事に見えますね。しかし、ご本人は「特に天気の良い日は『いい仕事を選んだなあ』と幸せを感じる」と語っていました。

美しい縞模様が特徴の「岡崎おうはん」

そらとふじさんのこだわり

「そらとふじ」さんは、養鶏に加え、農業もしています。それは、飼料をつくるため。鶏たちに与えている飼料は、自社農園で無農薬・無化学肥料で育てた手作り野菜のほか、地元のお豆腐屋さんから「おから」、造り酒屋さんから「酒粕」、農家さんから「キノコ類」、スーパーから惣菜を作る際にでる「野菜の切れ端」をもらい、自社農園内で発酵させたオリジナルの飼料。また、鶏糞を畑に戻すことで無駄なく循環できるよう工夫がされています。

自然の野鶏(鶏の先祖)が食べていたであろうと考えられるモノを与えたいという思いから、魚粉や海藻類、また黄身を着色するためのパプリカ色素などは与えていないそうです。そのため223EGGの卵の黄身は淡いレモン色です。

おすすめは、卵かけごはん!塩とワサビで頂くのが鈴木さんの一押し

平飼い養鶏で見えてきたもの

病気を乗り越え、着々と平飼い養鶏を進める鈴木さんですが、自然を相手に、トラブルはつきもの。強風や大雨の際は、ニワトリたちが生活しているビニールハウスがはがれてしまったり、イタチや野良猫に襲われてしまったり。残念ながら命を落としてしまうニワトリもいて、「愛着を持って育てているので、とてもつらい」とお話しされていました。

また、「平飼いが良い」という風にアピールしてしまうと、バタリーケージ飼育の養鶏場を否定してしまうような気がして、ジレンマを感じているようです。現代の加工食品の多くに卵が使用されているので、それを全て平飼いの卵で賄うのは無理なこと。鈴木さんは、平飼い養鶏の卵というスタイルを正確に伝え、消費者の方に選んでもらうことが大切ともお話してされていました。

平飼い養鶏を通じて、地域の中でやりたいこと


平飼い養鶏で作られた卵のなかには、殻にキズが入ってしまったものもあります。そうした卵は、味に問題が無くても生卵として販売するのを控えているそうです。野菜でいうところの規格外品です。「そらとふじ」さんでは、そのような規格外卵をシフォンケーキ屋さんに販売し、無駄が無いように活用しています。 今後は、自社でも焼き菓子やマヨネーズ、ベビーカステラ作りにもチャレンジされるそうです。

また、「ゆくゆくは都会の生活に疲れてしまっている人や、日々の生活に追われて疲れ果ててしまった人などを受け入れ、農業のお仕事を手伝ってもらうことも考えている。労働の対価として現金以外に、こだわりの野菜や卵を提供したり、土に触れて身体を癒してもらったり……。収入は減ってしまうかもしれないけど、みんな心は豊かに生活できるような仕組みを、また他所からの移住者でも、この地元の繋がりの中に自然に入っていける仕組みを提供できるようにしたい。」とこれからの展望をお話しされていました。

平飼いの鶏たち

「自分のできる範囲で、みんなが豊かに生活できる場を作りたい。小さい取り組みがいくつも増えていくと、そのうちどんどん大きくなっていくのではないかな。つながりをもっと増やしていきたい。」とお話しされていました。

自己満足で良いから、気軽にサステナブルを取り組んでほしい

最後に、サステナブルについて鈴木さんの考えを伺いました。

「サステナブルと聞くと、難しいことをイメージしたり、『やらなきゃいけない』といった強迫観念に駆られてしまうこともあると思いますが、もっと気軽に取り組んでほしい」と鈴木さん。

「『地球や環境に対して良いことをしよう』と気負わずに、『どうせ1人だけの力では大した変化は起きないのだから』と、肩の力を抜いて、自己満足でいいから、1日1個良い ことをしてみるのはどうでしょう?例えば、『ゴミのポイ捨てをしない』とか……そんな小さなことでも良いんです。自分の中でゲームみたいにやって、自分の中だけのサステナブルポイントがたまったような感覚になれますよ。」と気軽に取り組めるヒントをもらいました。

「地球に住む人みんなが1日ポイント貯めたら、全部で80億ポイントたまったってことになるでしょ? 」と、ニコッと笑って前向きにとらえる鈴木さんがとても印象的でした。

おわりに

いかがでしたか?今回は循環型農業に取り組む 、そらとふじの鈴木さんにお話を伺いました。取材の中で、鈴木さんに様々な試練があったと感じる場面が多かったのですが、常に自分は今何ができるかを考えて行動されており、前向きな姿勢がとても心に残っています。

サステナブルというと、物事を大きくとらえがちですが、鈴木さんの言う通りゲーム感覚でチャレンジしてみると、一歩が踏み出しやすく感じますね。少しのきっかけが、サステナブルなアクションとしてつながることも教えていただきました。

取材中、足元に来てくれた「きんちゃん」


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